ESG投資と「結い 2101」(その23&24最終回)~ESG視点「E」「S」と「匠」~

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◇◆◇━2021年9月17日━
ESG投資と「結い 2101」(その23)
~ESG視点「E」「S」と「匠」~
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皆様、こんにちは。鎌倉投信の鎌田恭幸です。
いつも鎌倉投信のメルマガを読んでいただき、ありがとうございます。

9月5日、東京パラリンピックが閉幕しました。アスリート達が全力を尽くし、多くの人に感動を与える姿を観ていると、ハンデキャップは個性であり、さらには異彩へと変わることを感じます。閉会式のフィナーレでは、東日本大震災で被災した東北3県で活躍する障碍者アーティストが描く個性的で多彩な色彩の絵をモチーフにしたプロジェクションマッピングが会場を彩り、印象的でした。そこに込められたメッセージは、東京オリンピック・パラリンピックの理念である「復興」、そして「多様性や違いを認め合う調和」でした。

こうした大会メッセージを世界中に発信しつつ、一方で、優れた感性で描かれた一点一点の障碍者アートの価値を伝えることができたのも、原画の「匠」と、デジタル技術の「匠」とが、掛け合わさったからこそ、でしょう。技術やサービスの水準の高さを意味する「匠」の本質とは、「時間や空間、物理的・物質的制約、異質性を超える力」、「元の価値とは異なる次元の価値に転換する(転換させる)力」だと感じるのです。

閉会式フィナーレで会場を魅了した障碍者アートを提供した会社は、「障碍のあるアーティストと、『支援』ではない対等なビジネス関係を築き、世界を隔てる先入観や常識をなくす」ことを目指す創業間もない会社(スタートアップ)です。代表の言葉「普通じゃない、ということ。それは同時に、可能性だと思う」は、心に響きます。

最近会うことがふえたこうしたスタートアップは、創業当初から、データサイエンス等の「匠」の技術で社会課題を解決しようとする会社、ESGでいえばE(環境:Environment)やS(社会:Social)を事業目的の中心に自然と据える会社が多いと感じます。

例えば、友達がうつになったことをきっかけに、心理学を学び、心の健康状態や組織における人間関係をよりよく保つヘルスケアシステムを開発する会社、雇用が進んでいない精神障碍者の雇用をふやそうと、一人ひとりの特性を細かく分析して、ITエンジニアやデザイナーとして活躍する人財を育成している会社、アパレル業界で原材料調達、製造工程の最適化によって過剰生産、カットロスをなくすことに挑戦する会社などは、事業によって、社内ではなく社会(会社の外)に生み出される価値(社会的アウトカム)に「E」や「S」の要素が強く存在します。

しかし、ESG評価では、基本的に多様な評価項目が自社内で実施できているか否かが測られるため、こうした会社が高く評価されることは容易ではないでしょう。それに対し、(鎌倉投信内で整理されている訳ではありませんが)「結い 2101」の評価視点「匠」では、「匠」の技術力・サービス力もさることながら、それが社会にどのように影響を与えているか、会社の外側に向けたインパクト(影響度)を量ろうとしているように個人的に感じます。つまり社内において現状形成されているものを測るのではなく、社内で形成される商品、サービスが社外において将来にわたりどのように影響を与えるか、を観ているように思うのです。

鎌倉投信では、こうした当社独自の評価視点をより理論的に表現できるようにと、ある会社と共同研究を始めました。現時点で、どのような成果に至るかは分かりませんが、将来的に「結い2101」の投資先にも役立てていただける研究になればと願っています。
(つづく)

鎌倉投信株式会社 
代表取締役社長 鎌田恭幸


◇◆◇━2021年9月24日━
ESG投資と「結い 2101」(最終回)
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皆様、こんにちは。鎌倉投信の鎌田恭幸です。
いつも鎌倉投信のメルマガを読んでいただき、ありがとうございます。

このところ、ESG投資〔E:Environment(環境)、S:Social(社会性)、G:Governance(企業統治)〕を謳う投資信託の設定がふえ、その運用残高が3兆円を超えるまでに急拡大しているようです。1年前は5千億円程度でしたのでとても違和感があります。

中には、以前からある投信の名前をESGに衣替えするケースもあり、実体がともなっているかどうか、名称にESGを付ける場合の基準を設けるべきではないか、といった議論まであるようです。欧州でも、環境への貢献を表面的に装う「グリーンウォッシュ」が問題視されており、投資の評価指標の基準策定(ESG格付け)に向けた議論に発展しています。

販売会社が推奨するテーマ型投信が急拡大しては、散々な結果を招いてきた投資信託の悲しい歴史を再び繰り返さないことを切に願います。

鎌倉投信は、「結い 2101」設定以来10年を超え、ESGとは異なる独自の視点で、日本が抱える社会課題を解決することで、持続的な社会をつくろうと努力する「いい会社」に投資してきました。また、この春、新たに組成したスタートアップ支援の有限責任投資事業組合「創発の莟(つぼみ)」(機関投資家等特定投資家向け私募(※))からの投資先も、明確な経営理念を掲げ、本業のど真ん中で社会創発を目指す会社です。

これらの投資先の中には、本業を通じて解決する社会課題領域を明確にする会社が少なからず存在します。さらには、社会課題を解決し、社会価値を創造することと、自社の発展成長・持続性との関係性を強く意識しています。そのため、こうした会社の場合、形式的・網羅的基準に基づく横並びのESG評価によって、社会性と事業性との関係や両者の相互発展性を量ることが難しく、独自のロジックモデル「事業や組織が最終的に目指す変化や効果(アウトカム)の実現に向けた相関モデル」を構築し、達成目標(KPI)を設定するケースがふえています。

実のところ、ESG投資をおこなう運用会社も、その評価を受ける事業会社も、ESGに対して納得感をもっている会社は少ないのではないでしょうか。その背景に、「社会価値創造と会社の持続的な発展・成長との因果関係」が不明瞭で、自社の「内発的動機に働きかけるものになっていない」ことが挙げられると思います。評価を受ける会社にとって、運用会社等による外発的動機によって形を整えたとしても、真に腹落ちしたものでなければ、会社の発展・成長に結びつくことはないでしょう。

「結い 2101」が「いい会社」を量るとき、本業における本気さ、言葉を替えると自社の存在目的に根差した内発的動機から社会価値を創造しようとしているか否か、を重視してきました。この視点は、正しく、今後も普遍だと思います。こうした評価視点と会社の持続的な発展・成長との因果関係を、鎌倉投信がより明確に示すことができれば、投資先や受益者との対話の質も一段と高まるでしょう。この点は、当社にとっても課題である、と認識しています。

広くモノ・サービスが行き渡り、一方で多くの社会課題を抱え、社会の質的転換が求められるこれからの時代において、もはや社会価値創造力を持たない会社が生き残ることは難しいでしょう。また同時に、社会性を謳ったとしても、それが本業と直接結びついていない会社もまた発展・成長し続けることは困難でしょう。

ESG評価の真価は、社会性と事業性との関係性と、その相互発展性を いかに見極めることができるか、にかかってくると感じます。私は、そう遠くないうちに、形式的、網羅的に測るESG評価は陳腐化してなくなり、実質性・実効性を量る新たな評価軸が生まれると予想します。

25回にわたりESGと「結い 2101」の関係について、個人的視点で考えてきました。これからも鎌倉投信は、投資先の「いい会社」を観る視点を独自に深めながら、「いい会社」の取組みをより分かりやすく皆様に伝えていきます。
(おわり)

(※)「創発の莟」は上場会社や機関投資家などの特定投資家向けの適格機関投資家専用私募ファンドです。個人など、一般投資家の方は、当組合に持分出資することはできません。

鎌倉投信株式会社 
代表取締役社長 鎌田恭幸

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