「インフレが示唆する潮目」「日本のインフレがもたらす転機」

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◇◆◇━2023年1月6日━
インフレが示唆する潮目
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新年おめでとうございます。

皆様、新たな年をどのようにお迎えになりましたか。
私は、近所の氏神様にお詣りをして、世界の平和を祈願しました。
簡単ではないことは重々承知していますが、人類が、あちらこちらで起きている紛争や気候変動といった様々な問題に直面する中で、平和に向けて世界が協調して歩むことを切に願います。

さて、昨年の金融市場を振り返ると、急激な物価上昇を抑制するために、欧米の中央銀行が政策金利を引き上げたことなどから、債券市場はもとより、株式市場にとっても大変厳しい1年になりました。
昨年の世界の主な株式指数をみると、米国(SP500株価指数)で19.4%、欧州(ストック欧州600指数)で12.9%、日本(東証株価指数)で5.0%の下落となりました。

こうした状況は「結い 2101」の運用にも影響を与えましたが、基準価額はマイナス1.2%と、小幅な下落にとどまりました。
一貫した運用方針の下で、「いい会社」への投資を継続しながら、「リスクをコントロールする」ことを念頭におき、1.株式組入比率を引下げたこと、2.投資先の分散を図ったことなどが一定の効果を上げたものと評価しています。

今年はどうかといえば、(鎌倉投信はマクロ経済や市場動向の予測に基づいた運用はおこなっていませんが)国際通貨基金(IMF)が「2023年の経済成長は、世界の多くの国にとって、これまでよりも厳しい年になる」との見通しを示しているとおり、予断を許さない状況が続きそうです。
「結い 2101」の運用においては、引き続き、ぶれのない投資姿勢を堅持しながら、しっかりとリスクコントロールをおこなっていきます。

一方で、2021年から顕在化してきたインフレや金利上昇の背景について考える時、私たちが避けて通ることのできない、3つの限界を突き付けられているように感じます。
1.金融緩和や政府の公的債務を中央銀行が引き受け続けるなど、マネーを膨張させることによって経済を支えることの限界
2.世界的にみれば今後も人口が増加していく中で、地球環境問題という制約条件下で今のようにエネルギーや食糧を大量に消費し続けることの限界
3.先の東西冷戦終結以降、広がりを見せてきた世界経済のグローバリゼーションの限界
です。

今回のインフレは、そうした資本主義の潮目を示唆している、と感じるのです。

これらを根本から解決するためには、
1.金融経済ではなく、実体経済を基軸にした経済活動への回帰
2.自然環境や格差、ジェンダーギャップといった、何かの犠牲の上に利益を享受する経済システムからの脱却
が求められるでしょう。
いずれも人類にとって大きな挑戦で叡智が試されます。
しかし、その先に、新たな次元の発展があるようにも感じます。

翻って「資産運用」と(投機ではなく)「投資」の違いを考えるとき、資産運用は、基本的に、現在の経済・金融システムの中で、将来高まるであろう価値の増幅を享受するものですが、投資とは、それと同時に、投資の仕方によっては、上に記したような経済や社会の構造そのものを変えてゆく力にもなり得ると考えます。
これからは、後者の視点がより重要になると考えています。

今年も役職員力を合わせて一所懸命取り組みます。

皆様、本年もどうかよろしくお願いします。


◇◆◇━2023年1月13日━
日本のインフレがもたらす転機
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皆様、こんにちは。鎌倉投信の鎌田恭幸です。
いつも鎌倉投信のメールマガジンを読んでいただきありがとうございます。

明日14日(土)、新春イベントを開催します。
テーマは、「時代を超えて変わらない『投資の本質』 ~インフレ環境下における資産形成の心構え~」です。
世界的なインフレ圧力と景気減速が懸念される中、どのようなスタンスで資産運用に取り組めばよいか、について話します。

そのための情報を整理する中で改めて疑問に感じたことが、日本のインフレ率は、確かに上昇傾向にあるとはいえ、世界の中でみるとかなり低い、という点です。
例えば、昨年11月の消費者物価指数(前年同月比)をみると、米国+7.1%、欧州+10.0%に対して、日本は+3.7%と低く、世界のあらゆる国の中でも最低水準なのです。

経済学者の渡辺努氏は、著書「世界インフレの謎」 (講談社現代新書)の中で、この状況を「日本が世界各国から取り残されている異様な状態、デフレ慢性病にある」とした上で、その理由に、「日本は、輸入物価の上昇分を国内価格に転嫁できていない度合いが他国と比べて突出して高い」ことを挙げ、日本人の「値上げ嫌い」と、モノ・サービスを提供する企業の「価格据え置き慣行」といった心理が背景にあると分析しています。

株式投資は、一般にインフレに対して有効だとされます。
企業は、インフレが反映される仕入れ等の原価に付加価値をつけ、原価を上回る価格で販売することによって利益を得、その利益の積み上げ(業績)が株価に反映されるからです。
さらに、通常であれば、業績やインフレに連動して働く人の給与も上昇し、個人消費が拡大して経済を循環させるからです。

しかし、日本の場合、渡辺氏の言葉を借りれば「価格と賃金が凍り付いてしまった」異常な状況が長く続き、適度なインフレがもたらす経済のプラス循環が形成されずにきました。

その賃金に目をむけると、日本人の1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与(年)は、1997年の4,673千円をピークに四半世紀にわたって下がり続け、2021年には同4,433千円になっています。
そのうち、非正規就業者の割合は全体の37%にも達しており、その平均賃金は、1,976千円と非常に厳しい状況です(国税庁「民間給与実態統計調査結果」、総務省「労働力調査」)。
その間、企業の経常利益額(法人企業統計 全産業,除く金融・保険)は、3倍に伸びているにもかかわらず、です。

足元のインフレは、確かに想定外で、家計や経済にマイナスの影響をもたらすでしょう。
しかしその一方で、日本の慢性疾患ともいえるデフレマインドから脱却し、健全な経済状態に回帰させる可能性も秘めていると感じます。
賃金の動向という側面では、ここもと議論が盛んな少子化問題にも影響を与えるでしょう。

後で振り返ったときに、期せずして訪れたインフレが、日本の慢性的なデフレを克服する転機になっていることを期待しています。
(本記事は毎週金曜日に発行しているメールマガジンの再掲です)

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